Research Bulletin(研究紀要):

国際金融研究センター・データサイエンス機構研究紀要

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ディスカッションペーパー:

混流する政策過程-電力システム改革と託送料金制度について-

著者:荒川正頼、 久武昌人

要約:

本稿では、数次にわたり行われた電気事業制度改革及び東日本大震災を契機として行われた電力システム改革を取り上げ、その政策過程を「大きな方向性を決める過程」というアリーナと「具体的制度設計を行う過程」というアリーナに分けて考察する。そして、この2つのアリーナの中で、各アクターのインセンティブ構造に基づく選択が政策の形成にどのように影響を与えたのかという点に着目留意しつつ、「電力改革を進めるという大きな方向性」が形成されていったプロセスを明らかする。また、原子力発電における核燃料サイクル関係費、原子力賠償費及び一般炉の廃炉関係費用の三つの負担について託送料金制度を用いて費用を徴収されることとなったプロセスを詳細に分析する。その際、ゲーム理論の諸概念を用いて各アクター間の戦略的関係性を明らかにする。次に、「政策過程の混流」という概念を提示することにより、検証を行う。具体的には、政策理念等の利用の態様に注意しつつ、「原子力政策」と「電力システム改革」という二つの大きな政策に関して、充分な相互調整のプロセスを経ることなく、ある時点で前者に関する意思決定が先行し、後者に関する政策を検討する場においては、少なくとも政策当局担当者にとっての大前提となり、そのことが後者の「政策過程全体に影響を与えたのではないか」という仮説について検証する。さらに、なぜこの逆のシークエンスで二つの政策過程が進むことはなかったのかという点について簡単な考察を行い、残された課題を整理する。

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混流する政策過程-政策過程の二層構造から見る「幼保一元化」に関する議論-
著者:荒川正頼、久武昌人

要約:

本稿では、規制緩和・地方分権推進の過程において、総合規制改革会議、地方分権改革推進会議の場で取り上げられた、幼稚園と保育所の一元化(幼保一元化)についての議論及び、文部科学省、厚生労働省でなされた一連の議論を取り上げる。そして、その政策過程を、大きな方向性を決める過程である政策の第一層と具体的制度設計を行う過程である政策の第二層に分けて考察する。この2つの政策階層の中で、各アクターのインセンティブ構造に基づく選択が政策の形成にどのように影響を与えたのかという点に着目留意しつつ、第一層である規制緩和・地方分権推進の過程で目指した、幼稚園と保育所の一元化が、省庁間の調整過程を経ることによって、幼稚園と保育所の一体化(幼保一体化)という形で集約されるに至ったプロセスを明らかにする。次に、①政策決定がなされる場(Field)、②特定の政策領域における専門知識を有するアクターの存在、③各アクターのインセンティブ構造に着目し、政策形成過程における各アクター間の戦略的関係性をゲーム理論の諸概念を用いて明らかにする。また、幼保一元化の過程を消費者庁設立時の過程と比較することにより、幼保を一元化する際に必要な要素を抽出するとともに、政策過程の二層構造の下では、第一層において政策の方向性を示す際には、第二層との関係において緻密な調整が必要であり、この点が不十分であると、第二層は自らの組織が持つ権限の範囲内で制度設計を行う事となり、その結果、社会の厚生を最大化できないという「政策過程の二重構造の罠」ともいうべき事態が生じる事に言及するとともに、このことが、2001年の省庁再編以降、我が国の政策形成システムが十分に機能していないという批判に対する原因の一つではないかとの問題提起を行う。

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保育所が母親の就業率に与える影響-その質及び量の評価-

著者:久武明日香

要約:

本研究では、東京23区内で、保育所の質の高いエリアとそうではないエリアで保育所の整備が母親の就業率に与える影響が異なるのかについての分析を行い、第二に2015年のデータを新たに加えて、朝井・神林・山口(2016)の分析を実施し、その結果を議論している。東京23区の保育所の質により、23区を二つのグループに分けた推定と、保育所の質が低い下位3区を除いた推定を試みた結果、核家族世帯において、保育所の質の高い12区の保育所定員率でも母親の就業率に効果を与えないという結果が得られたが、保育所の質の低い11区よりも保育所の質の高い12区の方が、両者とも統計的に有意な結果を得てはいないが、係数は大きくなるという結果が得られた。そして、2015年のデータを新たに加えても、朝井他(2016)と同様に、都道府県固定効果を考慮すると、保育所定員率は母親の就業率に全体(0-5歳児のいる夫婦のいるすべての世帯)では効果を与えないが、核家族世帯では正の効果をもつという結果が得られた。次に、東京23区を対象とした検証の結果は、全国と似たような結果が得られたものの、固定効果を考慮すると、核家族世帯では正ではあるが有意に推定されなかった。東京23区を対象とした分析で、質を考慮しても、正の効果を与える結果が得られなかった理由の一つとして、更なる検討を要するが、所得が高く、そして教育志向が高い家庭が、保育所定員に枠があったとしても、私的保育サービスを併用しながら幼稚園に通わせていることを示唆している可能性がある。日本では保育所の質を評価するための情報が他の先進国と比べても極めて限られており、今後の整備が期待される。

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全国主要私立大学の比較分析
著者:久武昌人、西村仁憲

要約:

各大学の財務諸表、公開情報等からどの程度各大学の特徴が読み取れるかについて考察した。具体的には、教育活動支出が50億円以上である全国の主要私立大学について、各大学の事業活動収支計算書等の情報を基に、4つの指標を算出した。その結果、教育活動への資金の使い方、広告活動、ST比及び関係者間の評価のギャップという面で相当の差異があることが判明した。これには、偏差値によるグループ間の差異が影響している可能性もあるが、それのみではなく、各大学固有の戦略の違い等が反映されていると考えられる。こうした観察は、産業組織論における4つの定型化された事実(stylized facts)の一つである「費用を要する活動」についての理解と極めて似ている。即ち、ある組織が何に費用をかけるか(生産、研究開発、広告等)について相当の差異が生じている可能性である。結果的に、教育サービスを受ける者及びその費用を負担する者にとって好ましいものにはなっていないおそれがある。典型的なモラルハザードやアドバースセレクションが起きているケースがあることが示唆される。契約理論の成果を活用しつつ、制度設計についての議論を深めることが重要である。

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(※全国主要私立大学の比較分析の改訂版)

7指標による全国主要私立大学の比較分析
著者:久武昌人、西村仁憲

要約:

各大学の財務諸表、公開情報等からどの程度各大学の特徴が読み取れるかについて考察した。具体的には、教育活動支出が50億円以上である全国の主要私立大学について、各大学の事業活動収支計算書等の情報を基に、7つの指標を算出した。その結果、教育活動への資金の使い方、その獲得手法、広告活動への注力、ST比及び関係者間の評価のギャップについて分析すると、大学間に相当の差異があることが判明した。これには、偏差値によるグループ間の差異が影響している可能性もあるが、それのみではなく、各大学固有の戦略の違い等が反映されていると考えられる。こうした観察は、産業組織論における4つの定型化された事実(stylized facts)の一つである「費用を要する活動」についての理解と極めて似ている。即ち、ある組織が何に費用をかけるか(生産、研究開発、広告等)について相当の差異が生じている可能性である。結果的に、教育サービスを受ける者及びその費用を負担する者にとって好ましいものにはなっていないおそれがある。典型的なモラルハザードやアドバースセレクションが起きているケースがあることが示唆される。契約理論等の成果を活用しつつ、制度設計についての議論を深めることが重要である。

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英語版:

Differentiation Strategies of Private Universities: The Japanese Case

Abstract:
In this paper, we analyze differentiation strategies among Japanese private universities in the higher education service market. We suggest that some Japanese private universities focus primarily on educational activity while others focus on advertisement activity. We also suggest that the institutions evaluating the quality of university education do not work well and propose that the public sector improves the functioning of the institutions providing information on Japanese private universities. Further, the sector should also educate Japanese consumers so that they could fully understand and evaluate the services that universities provide.

Keywords: university management, differentiation strategy, higher education policy

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リサーチノート:

政策過程の「二層構造」、「混流」及び「履歴効果」について

著者:久武昌人

要約:

1.問題意識・目的
 日々様々な政策が各国で検討されている。医療、福祉、環境、エネルギー、経済、産業、インフラ整備、教育等各分野ごとに議論が進んでいるが、広範なコンセンサスが形成される場合もあれば、鋭い対立を招く場合もある。後者の場合、膠着状態が続くケースもある。あるいは、ある方向性で押し切らようとすることもあるが、それに対する反発も根強く、機会があれば方向性を変更しようとする政治的動きが継続するという例もあとを立たない。こうした状況を見て、民主主義、国民国家、主権国家からなる国際社会、このいずれか、あるいはすべてに対して懐疑的な言説も多数示されるに至っている。こうした状況への検討進めるに際して、採用可能なアプローチには大別して三つの方向性があるのではないか。
 一つは、大きなシステムのガバナンスを直接検討するという方向性である。思考や研究の段階にとどまらない場合、その結果として出現する現実の方向性は、当然のことながら、既存のものを大きく変化させようとするものとなる。例えば、国際関係についてであれば、西欧型のそれに対して挑戦をするいわゆる現在の中国が志向しているといわれる方向が挙げられる。また、一国についてであれば、暫く前の日本が実施したように、選挙制度、特に選挙区の大きさと定数を大きく変更する、内閣の権限と機能を強化する等の例を思いつく。
次に、ミクロからのアプローチである。ある一つの政策分野や政策単位に着目し、そのメカニズムを検討するという方向性である。いわゆる分野別、あるいは、国別の研究がその代表例である。
そしてもう一つは、interX比較が考えられる。このXに国家が入れば、国際間比較となる。他方、このXに政策分野を入れたものの数は多くはないかもしれない。しかしながら、それが一定の有効性を持つ可能性があることを示すことについて一定の見解を示すことが本稿の目的である。

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認可保育所の第三者評価における利用者調査結果と組織マネジメント分析結果・サービス分析結果との関係についての一考察

著者:西村仁憲、久武昌人

要約:

「福祉サービス第三者評価事業に関する指針」(平成16年5月7日)に基づいて、福祉サービス第三者評価事業の目的及び推進体制及び各ガイドラインの概要が示された。このガイドラインに基づいて保育所の第三者評価がこれまで実施されてきたが、このガイドラインに基づいて公開されてきた評価結果が、保育所のサービスの消費者にとって、実態としてどのような意味を持ってきたかという点について、本レポートで考察を実施する。結論から言えば、日本の保育所の第三者評価が現状抱える最も致命的な問題点として、「誰のために評価を実施しているのかがよくわからない」という点が指摘されるのではないかという結果となった。

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幼児期の保育調査研究の国際的な現状と今後の課題

著者:久武昌人、西村仁憲

要約:

政府では子ども庁の創設に向けた検討が実施されているが、子ども庁創設の際には、政策手段が与える幼児に対する効果の調査結果に基づく制度設計を実施するという点が大前提になると考えられる。政策手段が与える幼児に対する効果の調査結果がうまくまとめられているOECD(2018)において解説されている研究蓄積が日本の政策形成にも有用であると考えられるため、本レポートではそのインプリケーションをまとめる。レビューを実施した結果、OECD(2018)で紹介されている研究の中に日本で実施された研究がほとんど見当たらない(もしくは存在しない)ということが明らかとなった。そこで、日本の学術研究の参考にするという観点から、レビューによって読み取れるいくつかの論点を本レポートでまとめた。

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政治、経済等の社会現象についての研究及びその進展について-場と相による社会現象研究原論(試論) -

著者:久武昌人

要約:

1.背景・問題意識
 政治、経済等の社会現象の発生とその変化のメカニズムについて日頃考えていることについて述べることとする。このテーマについて深堀りをして行くことを、近い将来、大学勤務の定年退職後の楽しみ(enjoyment)にしようと考えていたため、これまでは、様々なディスカッションの際に一部を披露することはあったものの、一定の体系として文書の形で説明する等は行って来てはいなかった。勿論、将来の楽しみのための基礎作業を今行うことの限界便益と眼前の諸案件についてのそれらとを、朧気ながらも比較していたからだとは思うが2、今回それを数年前倒して著すこととした契機は、情報社会学の基礎概念整理作業に参加する機会を得たことである3。それにいささかなりとも貢献したいと考え、また自らにとってもそれ自体ありがたい機会であると思い4、これまでの様に断片的に申し上げるのではなく、小生の構想の一端をこうした形でご説明すべきであると判断するに至った。

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政治、経済等の社会現象についての研究及びその進展について -場と相による社会現象
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プロジェクト紹介:

 

・包括連携協定自治体への協力

 千葉市で実施している「まちづくりアンケート」の調査結果の提供を受け、調査結果分析の協力を行いました。2019年5月23日に千葉市の市長に分析結果をご報告致しました。

NEWS CIT 2019年6月15日 https://www.it-chiba.ac.jp/cit_news/media/190615/topics1.html

 

・義務教育

1. 千葉市データ分析

 千葉市教育委員会と2019年11月に共同研究に関する覚書を締結し、「千葉市学力状況調査」の調査結果の提供を受けました。「千葉市学力状況調査」の調査結果分析の協力、今後のデータ構築に対する助言を行っています。

 

2. 先進的EdTech企業との共同研究

 2020年12月株式会社すららネット、株式会社LoiLoと共同研究契約を締結しました。両社と協力し、義務教育段階の児童生徒に対する調査研究のための準備を実施しています。

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20210105発表プレスリリース.pdf
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・ECEC

 同志社女子大学の埋橋玲子教授が日本国内で実施しているECERS※の調査に協力を行っています。ECERSの調査結果のデータベースの作成に向けて協力を行っています。

※参照:保育環境評価スケール研究会 http://www.hoikukankyohyoka.com/howto.html

 

・政策過程研究

 EBPMの推進は、政府レベルでも取り組まれている課題であり、また、地方自治体からも高い関心が示されています。しかしながら、その普及度、活用度、質等いずれの面においても、日本の現状は先進国の中で決して誉められるべき水準にはありません。

 このため、現在の構造的課題についての理解を深めるため、政策過程研究を実施しています。その成果は、日本の政策の質の向上に資することが期待されます。2020年度においては、REIWAプロジェクトの一環でもありますが、再生可能エネルギーについて調査研究を行いました。

 

 

データサイエンス機構の紹介:

 

 実証に基づく政策立案(EBPM=Evidence Based Policy Making)の定着の必要性はあるものの、以下三点の現状を鑑み、EBPMの専門組織として「データサイエンス機構(DSI)」を設立し、地方自治体等におけるEBPMを強力に推進することにより、地方自治体等でのより良い政策立案・評価プロセスの実現に貢献していくことと致しました。

  • わが国においてはEBPMの浸透が低く、その普及定着に課題がある
  • 統計データ等から統計的因果推論の手法を活用してエビデンスをつくりあげる専門組織がわが国にはまだ存在していない
  • 行政機関、特に財政の逼迫している地方自治体におけるEBPM適用ニーズの高まり